『筋膜系の機能解剖アトラス』(Carla Stecco 著)の主要なエッセンスをまとめます。
「筋膜(ファシア)」という言葉は一般的になりましたが、実際にそれがどんな構造で、どう体に影響しているか知っていますか?この本は、従来の「単なる筋肉の包み」という概念を覆し、**「全身を統合する一つのシステム」**として筋膜を定義した、セラピストのバイブルです。
学習に役立つ重要なポイントを3つの視点で整理しました。
1. 筋膜の2大分類:浅筋膜と深筋膜
筋膜は大きく分けて「浅い層」と「深い層」に分かれ、それぞれ役割が全く異なります。
- 浅筋膜(Superficial Fascia)
- 構造: 皮膚のすぐ下にあり、浅脂肪層(SAT)と深脂肪層(DAT)の間に存在する膜の層です。
- 役割: 皮神経や表在静脈、リンパ管を包み込んで保護しています。
- 臨床のヒント: 非常に感覚受容器が豊富で、身体イメージ(Body Image)の構築に重要です。むくみ(リンパの鬱滞)や、原因不明のしびれ(皮神経の絞扼)に関与します。
- 深筋膜(Deep Fascia)
- 構造: 筋肉を直接包む、より強固な線維性の膜です。さらに「腱膜筋膜(広背筋などの平らな腱)」と「筋外膜(個別の筋肉を包む膜)」に分けられます。
- 役割: 筋収縮の力を伝達し、関節の安定性を保つ役割があります。
2. 「痛み」と「滑り」の鍵:ヒアルロン酸(HA)
この本で最も強調されている「動ける体」の条件は、**筋膜同士の滑走性(スライド)**です。
- 潤滑油としての役割: 筋膜の各層の間には、**ヒアルロン酸(HA)**を豊富に含む疎性結合組織が存在します。これがサラサラな状態であれば、筋肉はスムーズに動けます。
- 高密度化(Densification): 不動、冷え、pHの変化(疲労)などが起きると、ヒアルロン酸が凝集してネバネバの**「ゲル状」**に固まります。
- 痛みのメカニズム: ヒアルロン酸が固まると、筋膜内のセンサー(固有受容器)が締め付けられ、脳へ「痛み」や「こり」として信号が送られます。
- 対策: 徒手による摩擦熱(40℃以上)や運動で組織の温度を上げると、ヒアルロン酸は再びサラサラ(ゾル化)に戻ります。
3. 筋膜は「巨大なセンサー(感覚器官)」である
筋膜はただの膜ではなく、全身の情報をキャッチする人体最大の感覚器官です。
- 豊富な受容器: 筋膜には、パチニ小体(圧に反応)、ルフィニ小体(伸びに反応)、自由神経終末(痛みに反応)がぎっしり詰まっています。
- 筋紡錘との連携: 筋肉の長さを測る「筋紡錘」も、実は筋周膜(深筋膜の一部)に連結しています。
- 臨床のヒント: 筋膜が硬くなると、センサーが誤作動を起こします。例えば、首の筋膜が硬いだけで、目や耳からの情報とズレが生じ、めまいや意識が遠のく感覚を出すこともあります。
まとめ:臨床でどう活かすか?
- 「筋肉」ではなく「滑り」を見る: その痛みは筋肉が足りないのではなく、筋肉を包む膜がくっついて(高密度化して)動けないだけかもしれません。
- 浅層からアプローチする勇気: 強いマッサージが苦手な方や、麻痺などで身体イメージが崩れている方には、皮膚を優しく動かす「浅筋膜リリース」がセンサーを正常化させる突破口になります。
- 連続性を考える: 大胸筋の緊張は、上腕筋膜を介して指先まで伝わります。痛みがある場所だけを見るのではなく、つながっている膜のラインを評価することが改善への近道です。
「筋膜を知ることは、体全体のネットワークを知ることである」
このアトラスの内容を理解すると、患者さんの「なんとなく重だるい」「じっとしていると痛い」といった声の裏にある、筋膜のSOSが聞こえるようになります。
引用元:Carla Stecco 著『筋膜系の機能解剖アトラス』

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