筋膜単位の“生理学”

筋膜マニュピレーションにおける“筋膜単位”は、単なる構造ではなく、精緻な神経生理学的ネットワークとしても機能しています。本記事では、協調中心(CC)や認知中心(CP)の役割、筋紡錘・ゴルジ腱器官・関連痛などをわかりやすく解説します。


筋膜単位には「2つの中枢」がある

1. 協調中心(CC:Coordination Center)

  • 筋による力を方向づける

  • 筋外膜(コラーゲン線維)に位置し、弾性があり伸張可能

2. 認知中心(CP:Perception Center)

  • 関節構造に位置し、腱・靱帯・関節包などの感覚情報を統合

  • 運動感覚は筋膜が担う(人工関節置換術の知見からも支持)


筋紡錘の働きとCCとの関係

筋紡錘は、筋膜全体の張力変化を感知・伝達するセンサーです。

  1. γ運動神経のインパルス → 筋紡錘が収縮

  2. 筋内膜・筋周膜が伸張 → CCに向かって力が収束

  3. 環螺旋終末が刺激され → 脊髄へ求心性インパルス送信(Ia・IIa)

  4. α線維を介して筋の再収縮が発生

この一連の流れに障害があると、関節痛や運動障害が生じやすくなります。特に、CCの高密度化はこの調整メカニズムを妨げ、痛みや機能低下の原因となります。


CPの感覚統合とフィードバック

CPは、運動における感覚の中枢として、次の役割を担っています。

  • 筋膜の自由神経終末が大脳皮質に正確な求心性情報を送る

  • 正しい感覚フィードバックがなければ、運動と感覚のズレが発生

🧠最近の研究では、脳は「筋肉そのもの」ではなく「運動方向」にインパルスを送ることがわかっています。つまり、筋膜単位という“方向性”を持った構造が前提になっているのです。


CCの高密度化と関連痛

正常な筋膜では、弾性によって神経終末が守られています。しかし、**CCが高密度化(硬く・緊張)**すると、以下のような現象が生じます。

  • わずかな圧でも自由神経終末が刺激され、痛みを引き起こす

  • 局所の疼痛だけでなく、関連痛筋膜配列全体に広がる痛みが出る

  • 筋膜の張力バランスが崩れると、疼痛が慢性化・再発する

✅代表的な疾患と関連する可能性:
坐骨神経痛、線維筋痛症、筋膜炎、腱鞘炎、滑液包炎、五十肩 など
→実は関節や腱そのものではなく、筋膜単位のCCの異常が原因のことも。


ゴルジ腱器官の働きとは?

ゴルジ腱器官は、筋と腱の移行部に存在する感覚受容器で、以下の特徴があります:

  • コラーゲン線維の螺旋構造に囲まれており、張力方向に敏感

  • 関節角度の変化に応じて、神経の興奮・抑制をコントロール

ゴルジ腱器官が働く2つの場面

  1. 関節角度に応じて動筋側の筋線維を抑制

  2. 拮抗筋側の単関節・二関節筋線維を抑制

→筋膜の張力構造とゴルジ腱器官の配置が絶妙に絡み合うことで、無意識下の精緻な運動制御が実現されています。


筋膜配列の全体像と調整の難しさ

筋膜単位は単独ではなく、**配列(チェーン)や螺旋(スパイラル)**として全身に連続しています。

  • 一部のCCが高密度化すると、筋膜全体に痛みや緊張が波及

  • 初期であれば自然に代償・回復も可能

  • 長期的には筋膜変性 → 慢性痛やパフォーマンス低下の原因


まとめ:筋膜は「感じて」「応える」システム

筋膜単位の生理学的理解において重要なのは以下の3点です:

✅1. 感覚と運動は筋膜によって統合されている

→ CPは関節感覚の司令塔、CCは動きのコントロールセンター

✅2. 神経受容器の働きが、痛みや運動精度に直結

→ 筋紡錘やゴルジ腱器官の働きがスムーズであることが重要

✅3. 筋膜の「高密度化」がすべてを狂わせる

→ 関連痛や慢性症状は、CCの異常から始まることが多い

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