体幹の筋膜螺旋
全体像
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体幹の筋膜螺旋は頭部から始まり、頸・胸・腰・骨盤へと螺旋的に走る線(力の伝達路)。
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頭部の左右前方に始まる2本は下行して体幹後方へ、頭部の後方に始まる2本は下行して体幹前方へ向かう。
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体幹の長い螺旋は頸部と腰部で左右が交差する点が特徴で、四肢の螺旋と異なる(頭部と腰部だけが互いに反対方向に動けるため)。
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これらは顔面→頸部→胸郭→腹部→骨盤→殿部を一体化し、回旋・体幹制御・上肢⇄下肢連動を実現する。
主な体幹筋膜螺旋
以下は本文内の主要螺旋の要点(経路の概略、関わる代表筋膜・筋、CFの主要点)です。CFは「融合中心(Counvergence/Fusion point)」で、筋膜張力が集中しやすい触診/治療の目安になります。
An-la-cp(前外方→胸後方へ下行する螺旋)
機能/経路
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顔面(咬筋・眼筋など)の緊張が頸部筋を介して頭板状筋へ伝わり、そこから脊柱・胸部後方へと螺旋的に下る。
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菱形筋・前鋸筋・肋間筋を介して胸郭へつながり、外腹斜筋→対側内腹斜筋を経て骨盤(殿部)へ終わる。
代表的に関与する筋膜/筋:咬筋筋膜、頭板状筋、菱形筋、前鋸筋、肋間筋、外腹斜筋、腹直筋鞘、腸脛靭帯/中殿筋へ連続。
CF(融合点) -
主CF(三点): 頬骨上縁上、頬骨下方、咬筋前方(顔面側の3点)
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関連CF:乳様突起(頭板状筋上)、僧帽筋下縁、胸骨下方(腹直筋鞘側方)、恥骨〜臍間付近(腹直筋鞘側方)、大殿筋下部付近(腸脛靭帯/中殿筋連続)
An-me-cp(前内方系の螺旋:顔面→腹部前壁へ)
機能/経路
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An-la-cpと並行して顔面から出る別の螺旋。帽状腱膜→項筋膜を通り頸部に入り、反対側の菱形筋や前鋸筋経由で**腹部前壁(白線付近)**に達する。
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白線付近で複数のCF(an-me-th3, an-me-lu, an-me-pv)を作り、一側の腰部⇄反対側の骨盤部に作用する。
代表的筋膜/筋:SMAS(表層筋腱膜系)、項筋膜、前鋸筋、腹斜筋群、腹直筋の腱画付近。
CF(融合点) -
主CF(三点): 鼻翼の側方、鼻唇溝〜上顎歯茎、下顎溝〜下顎歯茎(顔面の3点)
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関連CF:項靭帯直近(頸部)、第5肋間付近(胸骨側のCF)、剣状突起〜臍間の3点(腹部)、白線付近(臍〜恥骨の3点)、中殿筋筋膜付近(複雑動作時の終点)
Re-la-cp(後方発→胸前方へ下行する螺旋)
機能/経路
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乳様突起付近から始まり、頸の前外側→胸鎖乳突筋鞘→胸骨→大胸筋→腋窩→広背筋→胸腰筋膜→腰部・骨盤へと連続。
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広背筋→胸腰筋膜→反対側大殿筋へとつながる短い螺旋も形成し、上肢⇄下肢の連結を担う。
代表的筋膜/筋:胸鎖乳突筋筋膜、大胸筋筋外膜、広背筋、胸腰筋膜、外腹斜筋・内腹斜筋、鼠径靭帯(腹壁→骨盤へのルート)。
CF(融合点) -
主CF(三点): 眉の上の側頭窩前縁、頭頂部と耳輪上縁の中間、乳様突起外縁
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関連CF:下顎角と胸鎖乳突筋間(An-la-cl)、第5肋間付近の前鋸筋筋膜、T7高さで僧帽筋下縁、T12付近の脊柱起立筋側、上後腸骨棘付近、(下肢側と連結するCFあり)
Re-me-cp(後方発→前方へ下行する別系統の螺旋)
機能/経路
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頭頂〜後頭部付近から出発し、頭部後方→頸→胸郭→腰→仙骨へと降り、骨盤・内転筋領域まで達する長い螺旋。
代表的筋膜/筋:頭頂後頭部筋膜、胸鎖乳突筋付近、胸骨周辺の小胸筋/大胸筋筋膜、脊柱起立筋群、仙骨周囲筋膜。
CF(融合点) -
主CF(三点): 前額部と頭頂部の中間、頭頂部側方、後頭隆起やや上方
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関連CF:胸鎖乳突筋胸骨腱上(An-me-cl)、第2肋間(An-me-th)、T8–9付近の脊柱起立筋間(Re-me-th)、T12〜L2外側(Re-me-lu)、第1–2/第3–4仙骨孔上(Re-me-pv)、恥骨上の内転筋腱挿入部(An-me-cx: 下肢連結)
補足(動きの長短について)
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短い螺旋:日常の単純な運動(例:歩行の単純周期)では、螺旋が短く終わる(近距離のCFで完結)。
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長い螺旋:複雑な多分節運動やスポーツ的な動作では、螺旋は腰や殿部まで長く続き、より多くのCFを巻き込む(例:中殿筋筋膜を介してre-me-cxに至る)。
臨床的なポイント
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CFは筋膜張力の集積点なので、評価(触診)やマニュピレーションの有力なターゲットになりうる。
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顔面〜乳様突起〜胸骨〜腹部〜恥骨/仙骨といった連続性を意識すると、**遠隔部位の症状(首の緊張が骨盤運動へ影響)**が理解しやすい。
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体幹回旋や体位変化で「どの螺旋が短く/長く働いているか」を考えると、治療方針(どのCFを先に緩めるか等)が立てやすい。
まとめ
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体幹の筋膜螺旋は頭部→体幹→骨盤へと螺旋状に力を伝え、回旋と上下肢の連動を司る。
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主要螺旋(An-la-cp、An-me-cp、Re-la-cp、Re-me-cp)はそれぞれ**出発点(顔・頭)・経路・CF(触診点)**を持ち、臨床での評価・操作に使える。
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短い螺旋は単純動作に、長い螺旋は複雑動作に関与する — CFの位置を手がかりに全身の連鎖を読むのがコツです。
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